ハドソン河のモスコー

 先日亡くなったロビン・ウィリアムズの出演作で、自分が一番好きなのは何かなあと考えてみると、多分『ガープの世界』じゃないかと思います。『ホテル・ニューハンプシャー』が好きで(その頃、マシュー・モディンが好きで、彼の出演作を片っ端から観ていたものです)、原作者のジョン・アーヴィングつながりで観たんですが、『ホテル・ニューハンプシャー』よりもむしろ『ガープの世界』の方が更に面白かったなという記憶があります。ただ私、やはりどうでもいいことを優先的に(?)覚えているという癖がありまして、『ガープの世界』も、ウィリアムズさん演じる主人公のガープが、「welcome」と書かれた玄関マットを「wel」と「come」の間で2つにぶった切って、それを両肩のプロテクターとして装着してヒーローごっこをしていたシーンで大笑いしたのを一番覚えているという……(^-^;)。

 あと、『ガープの世界』と同じくらい好きなのが『グッドモーニング、ベトナム』で、これは私の中で「ベトナム戦争もの」としては『フルメタル・ジャケット』(こちらはキューブリック監督の、モディン主演)とともに双壁をなす作品であると思います(といっても、この2作は系統が違うといえば違う。『グッドモーニング、ベトナム』は、割とわかりやすい反戦性があります。単純といえば単純ともとれるところがある。『フルメタル・ジャケット』は、ねじねじねじねじねじれている感じ。熱くないです、ぞっとするような冷徹さがあります)。『プラトーン』と『7月4日に生まれて』が大嫌いなんですよね、ちなみに(^-^;)。コッポラ監督の『地獄の黙示録』と、それより更にコンラッドの原作に忠実というニコラス・ローグ監督の『闇の奥』(私が観たときのタイトルはこれだった。今は『真・地獄の黙示録』というタイトルになっているっぽい)なんかは、ある種のファンタジーともいえ、ベトナム戦争をネタに観客に説教していないので、別に嫌いではないですが、オリヴァー・ストーン監督のベトナムものは、どうもムカムカします。主人公が、「戦争」の中にいるように見せながら、実は外にいるんですよ。そんな感じ。

 で、それはともかく『ガープの世界』と『グッドモーニング、ベトナム』は日本で劇場公開されたものですが、劇場未公開作品のうち『ハドソン河のモスコー』という作品がありまして、私はこれもすごく好きです。上記2作品と較べれば、印象はおとなしい作品だとは思いますが、不思議な物悲しさという点では、ひょっとすると『ガープの世界』を上回るかもしれません。私が観たのは10数年前、既にソ連は崩壊していましたので、アメリカに亡命したソ連人のペーソスというのはわかりづらくなっていた時代だったとも思われますが、それでもカルチャーショックという、いつの時代でも普遍のものを描いているため、おそらく今観ても古くさいという感じはしないんじゃないかと思います。自ら望んで亡命したのに、「ぼくはロシア人だ!」と叫んでしまう主人公の悲しさに、おかしいやら切ないやら、そんな思いがしたのを覚えています。おすすめ映画です。