エロス+虐殺

朝顔だニャン
夏の名残りの朝顔。

エロス+虐殺〈ロング・バージョン〉
 というわけですが、昨日から2日かけて観たのは、『エロス+虐殺(ロング・バージョン)』という日本映画です。無政府主義者・大杉栄(細川俊之さん)と、その恋人となった伊藤野枝(岡田茉莉子さん)を軸に描いていく……、アーティスティックな映画……とひとことで言ってしまうと語弊があるとは思うのですが、個人的には、とにかく映像美だー! と思った作品だったのでした。

 これは言いかえれば、内容云々を語れるほど、実は理解できていないという……、ことだったりします(^_^;)。わかったような、わからないような、感覚的に観られたような、観られなかったような……。う~ん(笑)。

 何せ、導入部分のシーンのあとに、ぽんと画面に出された文章が、

春三月縊り残され花に舞う と吟じた大杉栄と乱調の美の生涯を生きた伊藤野枝の叛逆とエロトロジーについての若きわれわれ・私それともあなたのアンビバランスな加担に至る頽廃の歓びのあるトーキング

というもので、どこでどう切って読めばいいのだ的なもので(思わずメモしてしまった)、既にそこから、もう自分の頭では追いつけない作品であるというのがわかったわけで、で、がんばって観てみてもやっぱりわからんもんですから、最初は文学的言い回しに鳥肌が立ったというか、「これはわし、よう観んわ、観られんわ~」と思ってしまったのですが、だんだん観ているうちにクセになってくるというか、今となってはもう一回観てみたいような気さえします。観る気力は無いけど(^^;)。何せ、216分なもので。

 ちなみに大杉たちの生活を描く場面と並行するような形で、昭和40年代当時の若者のシーンが登場するのですが、そこで若かりし日の原田大二郎さんのお姿を見るたびに、何かもう、本当に悪気はないのですが、こう……、笑いがこみあげてきて、真面目に観られないのです(^_^;)。原田さんって、素が……愉快なオッサンというイメージがあって……、「俺は原田大二郎だー!」と叫んで高笑いすると元気になれるような、そんな思い込みまで自分の中にはあります(何故に)。

 あと、ひとつ「何だろうな~」と思ったのは、大杉の言う「自由恋愛」というやつで、妻女のほかに、いわゆる愛人を2人持ち、それを「自由恋愛」と称すならば、なぜ「結婚」という形を継続させていくのか、そもそも結婚するという選択をしているのか、というのが心底わからない。正直、「口だけなら、何とでも言えるわな」と感じてしまう(^^;)。ほざくなよ~、と思いながら観てしまった部分もあるのですが、これは表層的な捉え方をしているにすぎない私のような浅薄な輩にこそ生じる感想なのかもしれません。

 いやしかし、先述したように、映像美がじわじわ心にくるような作品でした。モノクロの世界が、心に染みとおるような。音楽も染みとおります。

 関係ないですが、細川さん色っぽいな~、と思っていたら、録画したままでまだ観ていなかった『帰ってきた用心棒』の第20話のゲストが細川さんであることを知り、そっちも観てしまったという。おお、栗塚さんと細川さんの、夢のコラボ(今の私にとって)だぞ! と思いながら、にやにや観ました。面白かった……(ポワ~ン)。

そして、『奇談』。

奇談 プレミアム・エディション
 くだんの『奇談』を観ました。くだんのきだん、だって。プフー(どうでもいい)。

 うあっ、お、面白い……!
 やばいっす、これは面白いっす。
 本編が90分弱という、あまり長くない作品ということもあって、つづけて2回観てしまいました。まだ何回か観てしまいそうな予感がします……(^_^;)。

妖怪ハンター 地の巻 (集英社文庫) この作品、原作は諸星大二郎さんの「生命の木」という漫画で、これは「妖怪ハンター」シリーズの中の一編であります。集英社文庫の『妖怪ハンター 地の巻』にも収録されています。妖怪ハンターとは、考古学者・稗田礼二郎先生のことで、名前はどうも、『古事記』の口誦者であるといわれている稗田阿礼(ひえだのあれ)からとられているもよう。この先生、考古学のみならず、宗教学、民俗学もからみあわせて考察を行っていくひとであります。この「妖怪ハンター」シリーズ、大好きなのです、もともと。

 で、『奇談』。これは「生命の木」の根幹をしっかり描いたうえで、さらに膨らませたような感じの、いや、とってもいい感じの映像化作品でした。淡々と落ち着いた感じですすんでいくので、観ていてとても安定感がありました。

 内容はというと、ちょっとネタバレになってしまうのですが……、隠れキリシタンの村の話です。いわゆる『聖書』とは異なる、奇妙な「創世記」の言い伝えが残る東北の渡戸村が舞台となっており、その村には二派のキリスト教信者が昔から住んでいるといいます。ひとつは、「本村」といわれる中心地に住む“普通の”村人、もうひとつは、「はなれ」と呼ばれ忌まれている山里に住む村人。この「はなれ」の人々は、7歳児程度の知能の人々ばかりであるといい、それは狭い集落で近親婚を重ねてきたからだと解釈されています。

 ただ、この「はなれ」の人々が大人の知能を持たないのは、そこに伝わる「創世記」に照らし合わせて考えると、それはこの人々の先祖が「知恵の木」の実は食べず、「生命の木」の実を食べたからだということになるという。

 通常の『聖書』では、最初の「人間」はアダムとイヴとされているところが、この村に伝わる伝承では、「あだん」と「じゅすへる」というふたりになっています。「じゅすへる」が「あだん」をたばかり、神から「食べないように」と強く言われていた禁断の木の実のうち、知恵の実を「あだん」が食べ、生命の実を「じゅすへる」が食べてしまう。「あだん(アダム)」は知恵を持ってしまい、下界に追放され、人類の祖先となりますが、「じゅすへる」の子孫も存在し、その子孫は死ぬことがない身となったと伝えられているといいます。

 原作では、その村に興味を持った「ぼく」という青年が登場し、村に調査にやってきていた稗田と出会うのですが、『奇談』は原作に神隠し話をプラスし、登場人物も若干変更されています。16年前にその村で起こった神隠し事件の生還者である大学院生の女性(民俗学専攻)が主人公となっており、村に赴いた際に知り合った稗田とともに、その村の実態(?)を知ることになる、という話です。あの短い原作漫画を、細かい設定をプラスして膨らませ、奇想天外ともいえる話ながら、部分部分にさらなる説得力が生じているように思いました。

 キリスト教、ことにカトリックの信者の話といっても、そこに日本の民俗がからまって、何ともいえない土俗的な空気が醸しだされており、なんともぞくぞくしてしまいます。原作にプラスされている神隠し話の中で、「いんへるの」から生還した子どもは「7歳に満たない女児」であったともいい、上述した「はなれ」の人々の知能は7歳児程度であるという、このともに「7歳」というのが、ちょっと印象に残りました。そういやぁ、昔の日本では、「7つ前までは神のうち」ともいって、7歳になるまでは、子どもは「神さまからの預かりもの」とされ、「人間」としては扱われなかった(というのは、7歳前の子どもが亡くなった場合には、それは「神のもとへ帰った」のだとされ、普通の葬送とは違う方法で葬ったとか)とも聞きます。そんなふうな日本の民俗がエッセンスとして含まれていて、とても土俗的な空気を感じる作品だなと思いました。

 欲を言えば、ラスト近く、「いんへるの」前に「3じゅわん」が居たシーンが、何かただの何もない空間のように見えたのですが、自分の中では原作の印象が強くて、もっとごつごつした洞穴のようなところをイメージしていたので、そういう感じにしてもらえたらもっと良かったのかなとも思います。

 ただやっぱり「ぱらいそ」へ行くシーンはすごかったです。原作のコマ割りそっくりで、イメージぴったりでした。圧巻でした。

 この『奇談』、稗田先生を演じるのは阿部寛さん、主人公の女子学生を演じるのは藤澤恵麻さんなのですが、このふたりの雰囲気が、淡々としていて安定感があって、とてもよかったです。特に藤澤さんの可憐さと素朴さに、かなりやられました。派手さはないですが、堅実な感じで、表情がとても素敵で、ちょっとファンになってしまいそうな感じがします(笑)。正直2回目を観たのは藤澤さん見たさから、と言っても過言ではないくらいです。何かこう、時代劇を観ていて、昔の女優さんっていいな~と思うのですが、その方々の中でも特に好きな磯部玉枝さん(いわゆる「典型的美人」ではないけれど、ちょっと愛嬌がありつつ、芯がしっかりしている雰囲気の方)とか、丘さとみさん(ふっくらしていてかわいらしい)の雰囲気にも通じるものを、藤澤さんからも感じるような気が……。時代劇とか、いかがでしょうか、藤澤さん。感じいいなあ、かわいいなあ……。デレデレ~(おっさん化)。

オペレッタ 狸御殿 よりも、『奇談』?

オペレッタ 狸御殿 デラックス版
 そうそう、この前観て、書こう書こうと思いながらそのままになっていました、『オペレッタ 狸御殿』。

 とりあえず、どこをどう観たらいいのか、最後まで「?」なまま終わってしまいました(^^;)。み、見どころがわかんねえ! 何がいいか悪いか、ポイントがわかんない、とにかくわかんない。テンションが高いんだか低いんだかわかんない。いろんな「わかんない」がぐるぐるして、面白いのか面白くないのかわかんない、という感じで終わってしまったという。

 でも何か、ちょっと憎めない作品……という気もするのでした(笑)。

 ところでこの作品のDVDを借りてきて観ていたらば、本編が始まる前のお知らせ映像に、『奇談』という作品が登場していまして、ぞわっと総毛立ちました。

 ここ、これは、諸星大二郎さんの「生命の木」を映画化したという、アレかーーーー!!

 うわっ、これは、すごい……!

 と、その映像を観ただけで、全身がぞわっとしました。借りてきます、明日にでも。