「英霊祭は見合わせ?」
 中将と僧正の顔を交互に見て、レイヴは思わずそう問い返した。ヴォーラスの若い騎士団長のそんないぶかしげな表情を予測していたのか、中将はさして困ったような顔もせずに小さくうなずき、僧正は静かに騎士団長をみつめただけだった。
「中止ですか?」
 レイヴは尋ねた。中将は今度はうなずかなかった。
「中止ではないよ」
 中将が言った。だが、その眼はレイヴではなく、窓の外を見ている。
「ファンガムが言ってきたのですか。英霊祭を中止せよと。それともカノーアですか」
 中将の背中にレイヴはそう言った。中将はレイヴの方を見なかった。
「閣下」
 もう一度、レイヴは中将の背中に言った。窓の外では、新しい夜がそこまで来ているようだった。


 沢を登っていくときには、次にどんな景色が現れるのかがわからないことが多い。平坦な道を歩くときの何倍もの想像力が引き出される。愛馬を待たせ、レイヴは岩場を見上げた。この沢は、馬を連れて突破するのは不可能だ。岩が切り立っているだけでなく、水流がかなり激しい。こうして立っているだけで、水のこまかな飛沫が顔に当たってくる。滝の流れの中心部は苔が少なくて登りやすいことが多いのだが、この水量では断念するしかなさそうだと思った。
 岩場を見上げているレイヴに、愛馬がふと顔を寄せてきた。黒い眼が何事か言っているようにレイヴを見る。
「……おまえのせいではないよ。俺だって、岩を登れるような靴を履いていないから」
 そうつぶやいて、レイヴは愛馬を撫でてやった。
 沢を登らずに、背の低い草の中を歩いていく。それでも、水の流れに沿って進んでいくことにした。ヘブロン王国を出てエスパルダ皇国に入ってから2日目になる。地図と方位磁針、それらから察するに、どうもこの沢はエスパルダを流れるドレイク川あたりの上流にあたるのではないかとレイヴは思った。もしそうならば、この沢を伝って下流へ下流へと進んでいけば、とりあえず平地には出られよう。
「レイヴ」
 背後から声がした。聞き覚えのある声だった。振り向くと、黒い髪に黒い眼をした女天使が立っていた。
「……うしろから声をかけるな」
 レイヴは眼を細めて言った。振り返ったとき、女天使が立っている木立の隙間からちょうど光が射していて、それが彼の眼に飛び込んできて、それから染み込んでいった。
「待ち伏せの方がお好みか?」
 言いながら、彼女は歩み寄ってきた。「おはようさん」と言いながら、レイヴの横に並ぶ。
「遅れて申し訳もない。寝坊した」
 天使が言った。レイヴは「ああ」とだけ答えた。初夏の日差しと浅緑の木の葉が、天使の顔の上に、まだらの影を落としている。
 そのとき、ふと、彼の愛馬が立ち止まった。周囲に何か気になるものがあるような様子でもなく、ただ元気なくその場で息をついている。
「どうした。どこか具合でも悪いのか」
 手綱を引く手を緩めて愛馬を顧みた。彼を見つめ返してくる愛馬の眼に、彼は「水を飲みたいのかもしれないな」と思った。
「僭越ながら」
 やおら天使が声を上げた。
「こちらのお馬さまのお名前は?」
 訊かれてレイヴは天使を見た。それから答えた。
「クリフォードだ」
 天使はうなずいた。
「なるほど。クリフォード、どこぞどうにかなさったのか?」
 言うと、彼女はクリフォードの顔のあたりに自分の顔を近づけて何事かつぶやいていたように見えた。
「クリフォードは昨夜、ようおやすみになれなんだそうじゃ。ここ2、3日、とみに暑うなってきたし、お身体にこたえておるようじゃな」
 クリフォードから顔を離して天使は言った。


「レイヴ、召し上がるか?」
 顔を上げると、天使が口を動かしながら手を差し出している。彼女の手には豆粒ほどの赤い苺が盛られてあって、それをレイヴは草の上に腰を下ろしたままでひとつつまんだ。
 酷くえぐい。
 彼が苺を口にして顔をしかめたのを見て、天使は笑いを堪えるような表情をした。
 レイヴの愛馬クリフォードは、水を飲み終わって木蔭で休んでいる。昨夜眠れなかったということらしいが、その疲れからか、今は眠ってでもいるのかおとなしい。
「馬の言葉がわかるのか?」
 苺を飲み込んでレイヴは天使に尋ねた。酸っぱい苺を口に入れながら、天使は答えた。
「ある程度のことは、集中すれば聞こえる」
「……俺にも、そんな力があればな」
 クリフォードに無理をさせることもないだろうに、と言いかけて、レイヴはその言葉を飲み込んだ。
「クリフォードのことが、もっとわかるのに?」
 天使が口許をすぼめながら言った。レイヴは彼女の顔をちらりとみやり、それから「ああ」と短く答えた。
「酸っぱいだろう?」
 苺を食べつづける天使にレイヴは言った。
「うん、酸っぱい」
「全部食べられるのか」
 天使はよれたような笑顔になった。
「どうじゃろう。捨てるつもりもないが」
「……半分受け持つが」
 そう言って手を差し出したレイヴを、天使はちょっと見て、それから苺の半分をレイヴに渡した。
 ふたりで黙って苺を食べていた。風が吹いてきて、それからまたまだらの影が、ふたりの身体の上にも草の上にも落ちていた。影と影の間には、梢から降りてくるこごったような陽の光が、かたまり、淀み、震えて、しかし決して壊れて消えることはない。
 見上げた先に、ぎざぎざと切れ込みのある葉が繁った木があって、よく眼を凝らしてみると、白い小さな花がいくつもついている。それをじっと眺めていた。
「あれは、コゴメウツギという」
 天使が言った。彼女も同じ木を見ているらしかった。
「あの花は、インフォスのいろんなところで、この時季見かけるよ。去年も一昨年も、あの花が咲けば、レイヴは英霊祭で一旦ヴォーラスにお帰りになる時節じゃなと思うた」
 英霊祭、その言葉に脳裏の奥でレイヴは反応した。天使の言うように、毎年この時期になると、この世界のどこで彼が旅をしていようともヴォーラスから迎えがやってきて、彼を祖国まで連れ帰っていった。祖国の名においてその生命を果てさせた武人たちを偲び、国民あげて過去と未来に手を合わせる、それが英霊祭と呼ばれる祭だった。騎士団長であるレイヴは、その祭で英霊たちに奉辞を読み上げる。レイヴはそのとき、自分の背中に騎士団員だけではなく、過去の英霊たちに連なる家族や友人、そうして声なく彼をみつめる数多の人々の祈りと息吹を預かり、そうやって自分は奉辞を読んでいるのだと感じる。それが彼にとっての英霊祭であった。
「今年もそろそろかと思うたけれど、もう少し先のことじゃったか?」
 天使の問いに、彼は黙ったまま苺を口に入れた。
 最後の一粒になっていた。


 天使が走っていく先に、確かに渓流があって、そこに小さな滝が音をたてて落ちている。大きな岩と岩の間に天使は駆け上がっていき、その岩の裂け目のあたりで立ち止まって手を振ってきた。
「レイヴ、こっちこっち。このあたりでさっき苺をとりにきたときに魚を見た」
 言いながら彼女は履いているブーツを脱ごうとしているように見えた。彼は急いで身につけていた鎧を脱ぎ草の上に置くと、岩場の方へ駆けていき、
「履物は脱ぐな、足を切るぞ」
と声高に言った。
 ブーツを脱ぐ手を止めて、隣にやってきた彼に、天使は水の中を指して言った。
「あの魚は?」
「ヤマメだ。水が綺麗だな」
「うん、透き通っておって、堂々としている」
 天使の感想に、レイヴは一瞬彼女の顔を見たが、すぐに、
「待っていろ。もう少し水の勢いの弱い浅瀬の方がいい」
そう言ってズボンの裾を折り、岩から下りてそのまま水の中に入っていった。思ったより浅い。膝まで浸かるかと思っていたが、それほどでもない。鎧と同じ鉄製の靴が重くて自由はききにくいのだが、それでも水を吸い込まないし浮力が働く分だけ、陸よりは多少楽に歩けるような気もする。
「このあたりだ。来てみろ。草陰があってちょうどいい」
 天使を呼ぶと、彼女はスカートのような衣服の裾を絞り結び、両腕はといえば袖もまくりあげ、ざぶりと水に飛び込んで流れをかきわけかきわけやってきた。レイヴの忠告通り、ブーツは脱がずにそのままのしのしと歩いてくる。
「濡れるだろう。飛んでくればよいのではないか」
 レイヴの言に、天使は
「それでは面白うないじゃろうが!」
と至極真面目な顔をして言った。
 岩だらけに見える水場の中に草が茂っている一画があった。岩と草に囲まれ、水流も緩く、陰になっていてそこだけ薄暗い。
 レイヴはその薄暗い場所を指差し、天使を手で制した。静かに、という合図だった。天使は少し身を屈めて水の中を覗き込む。
「レイヴ、魚じゃ」
「ああ」
 何故か小声でふたりは言った。
「じっとしておる。魚、泳いでおらぬよ」
「習性だ。もともとこんな陰になっているようなところに、魚は安心するんだ。陰に入ってしまえば、安全だと思ってそうそう動き回ったりはしない」
 水の中のヤマメが身動きしないのを確認しながらレイヴはそう言った。
「こうやって、手で陰をつくりながら、そっと近づいていって……、手掴みだ!」
 言うなりレイヴは水の中のヤマメを両手で掴んだ。手応えがあった。手を出してみると、手の中にさっきのヤマメが納まっている。
「おお、すごい!」
 天使が感嘆の声を上げた。
「竿が無うても、そんなふうにすればよいのじゃな」
「ああ」
 はねるヤマメに両手を上下させながらレイヴはうなずいた。
「しかしレイヴ、その魚、入物はいかがする?」
 天使の言に、レイヴは思わず手の中のヤマメと天使の顔を交互に見た。


 藤の蔓をどこからか切ってきて、天使が編み籠をつくった。さっきとったヤマメは、結局入物がなくて、また水に放した。水の中に返してやると、最初は弱っているのかと思えるほど心許ない泳ぎ方のように見えたけれど、それでも何秒か経つと流れの中を縫うように泳いでいって見えなくなった。
 天使は編み籠を左の腕に引っ掛け、それから余った藤蔓を右手に持って、鞭のようにして遊んでいた。岩をぴしぴしと少し打ち、レイヴの方に声をかける。
「また獲れそうか?」
 水の中をみつめながらレイヴは答えた。
「さっき放したやつが、仲間に警報でも出したかもな……」
 そう言って顔を上げると、いつのまにか天使が目の前にいた。空中に浮かんで、手に持った蔓をだらりと下げている。その先端が、水の中に浸かり、そこから波紋がひっきりなしに広がっていく。
「いきなり目の前に現れるな」
 レイヴが言うと、天使は籠をぶらぶらと揺らしながらやおら言った。
「クリフォードが、昨夜ようおやすみになれなんだ、その原因をレイヴはご存知か?」
「何だ? クリフォードが言ったのか?」
「そうじゃ」
「……俺が知るわけがないだろう、クリフォードの言葉がわからないのだからな、おまえとは違――」
「昨夜、お泊まりになった宿屋の厩舎の前あたりに、一晩中レイヴがおいでたそうじゃが」
 言われてレイヴは天使の顔を見た。
「それもクリフォードが?」
「うん」
「俺が原因だと?」
「クリフォードは、レイヴは何ぞお疲れなのではないかと思うておるようじゃが」
 レイヴは水の中を見るのをやめた。岩場に上がり、そこに腰掛けた。
「かわいそうなことをした……」
 つぶやいた。天使も岩に降りたって、腰掛けた。


 天使がクリフォードから聞いたというように、レイヴは前の晩、眠れないまま夜風に当たりに宿屋の外を歩いていた。
 彼の頭の中に渦をつくっていて、そこから形にならず、また溶けてなくなってもしまわないもの、それは英霊祭の挙行について、少し前にヘブロンの王立軍の中将から聞かされた話だった。
 隣国カノーアの王室が、ヘブロンの英霊祭の規模縮小を要請してきたという。
 レイヴはそこで、「規模縮小」とは具体的にどういったことを指して、カノーアは要請してきたのかということを中将に尋ねた。カノーアの意図がわからなかった。
 中将は言った。カノーアは、第一に、祭の名前を「英霊」というものを冠しないものに変更してくれといってきたというのだった。


「それこそカノーア側の理由は?」
 黙ってレイヴの話を聞いていた天使が不意に尋ねた。レイヴはうなずいて答えた。
「それには『英霊祭』自体の根源から少し説明することになるが……、あの祭が始まったのはもう何百年か昔のことだ。それだけ古い時代から、ヘブロンには騎士がいて、外の国と戦争をしていたということに……なるだろう。戦争の相手は、主に北の隣国のファンガムだ。ファンガムに行ったことはあるか?」
「うん。レイヴはご存知ないやもしれぬけれども、実は、このインフォス守護のための『勇者』の候補がファンガムにもおいでて、それでお顔を拝見しに行ったことはある。夏でも雪が残るような高い山がたくさんあって、冬は凍りつくように寒い……」
 レイヴはうなずいた。
「その厳しい気候が、ファンガム人に戦を強いたということでもあろうがな……」
 ヘブロンの北東に位置する隣国のファンガムは三方を海に囲まれた海洋性の国で、元来ファンガム人は航海術に長け、外国に海から侵攻していくという歴史を繰り返してもいたという。彼らをして、外国に侵攻せしめたその最大の要因は、ファンガムの気候の厳しさ、土地の貧しさであった。自活できるものといえば、海産物と少しの鉱物資源、それから雪解けを利用した水といったもので、それ以外のものはほとんど自国でまかなえない国だった。
「農産物がほとんど育たない国らしくてな、それだから領土拡大をにらんだ戦争を、ヘブロンに幾度も仕掛けてきたわけだ」
 そうレイヴが説明すると、天使はまた蔓の鞭を水の中に垂らした。レイヴの話を疎かにしている様子ではないが、少々手持ち無沙汰といったところだろうか、子どものようにその蔓をぶらぶらさせた。
「『勇者』候補のご尊顔を拝しに参ったとき、さほど貧しい国には見えなんだけれども」
「今はカノーアと同盟を結んでいる。カノーアは農産物が豊富だ。ヘブロンより豊かかもしれんな。カノーアが、現国王の治世になってからの同盟だが……」
 カノーアは、ヘブロンとも同盟国なのだ、とレイヴは付け足した。むしろ、カノーアがヘブロンと同盟を結んだのは、カノーアとファンガム間のそれよりも時期的にはかなり早い。もう300年以上も前の話である。
 このカノーアとヘブロンの間の同盟は、カノーアからの申し出から始まったといわれている。東の騎士の大国ヘブロンは、カノーアにとって自国を揺るがすほどの力を持つ脅威の国で、それだからカノーアは友好関係を明文化しようとした。
「そもそもカノーアが今の共和制――、ああ、もう知っているかもしれんが、カノーアは王室はあるが、絶対的な権限は王にはないんだ。つまり、君主制ではない。王は国の象徴だが、政治的権限は他の貴族たちと同等だ。王と貴族が合議を行って政治を行う。実施される政策は王の御名におけるものらしいが、ともかくその政治形態は、ヘブロンともファンガムとも違う。昔はそうじゃなかったんだ。昔のカノーアは、ヘブロンやファンガムと同じように王室中心で回っていた。王が君主としての力を持ち、政治も外交も戦も行ってきた。ヘブロンとも戦をやったんだ。そのときは――、ヘブロンは例年にない旱魃の年で、農作物の収獲がゼロに等しかった。だから――、カノーアに侵攻した。ヘブロンには水も足りなかったらしいからな。騎士たちも、気が立っていたことだろうと思う……」
 だが、「略奪」には違いない、レイヴはそう思ったが、敢えてそれは口にしなかった。
「その戦争は、ヘブロンの騎士団の圧勝だったと聞く。温厚で普段は牧畜なんかに従事しているカノーアの兵たちだ。騎士稼業を生業にしているヴォーラス騎士団とは、やはり……力の差があったらしい。戦自体はカノーアの早期降伏で終結したが、ただ、カノーアでひとつだけ、壊滅してしまった街があってな。それが……トラスト。今ではすっかり復興して、美しい街になっている。まあ、その戦のあとで、カノーアが同盟締結を申し入れてきたわけだ。おまけに、君主制から共和制へと移行もした。慎重で温厚なひとたちの豊かな国だが、同時に自衛手段を考える頭脳を持ち、大胆な変革も行う。それが、カノーアだ」
 レイヴはカノーアという国に対する敬意の念を込めて、天使にそう説明した。が、同時に今回のカノーア王室の申し入れには、それでもやはり納得がいかなかった。
「そのカノーアが、どうして今、『英霊祭』の名前を変えろと言うてきたのじゃ?」
「それを俺も知りたい」
 あのとき中将は、曖昧に答えを濁した。あの中将の歯切れの悪さから、ヘブロンの上層部にはカノーアの今回の注文を無視できない理由なり、思惑なり、何かがあるのだろうとレイヴは思ってもいた。
「上司から、英霊祭について今回のように聞かされた。だが俺は……騎士団の連中には話していない。……話せないのだろうな。どうやって説明したらいいのかが、俺にはわかっていないんだ、だから……、何だろうな、夜うろついて、昔のことを考えたり、馬を見たり……、そんなていたらくだ。団長のくせにな」
 レイヴはそう言って笑った。天使は笑わずに、表情を変えずに言った。
「自分で納得できぬことを、他人に伝えるのは難しい。真理じゃ。レイヴだけではない、多分」
 天使の言にレイヴは彼女を見た。彼女は相変わらず、蔓の鞭を水に入れて遊んでいる。かきまわす。波紋が生まれて見えなくなる。波紋の中で、彼女の黒い髪も溶けて見えなくなっていく。そしてまた生まれる。
「ともかく、何がしかの目処がつくまで、英霊祭は延期になる。行われるとしても、英霊祭という名が残ることはないかもしれんがな……」
 そこで一息つくと、レイヴは足を水に入れた。
「カノーアのひとたちは、特に昔のヘブロンとの戦で一度壊滅したトラストのひとたちは、ヘブロンの騎士団のことを少なからず……快くは思っていないらしい。自国に侵攻してきたヴォーラス騎士団の戦死者を、『英霊』として美化されるのは……嫌だという理由もあるらしい……」
 水に入れた足で水面を掻きまわした。天使が蔓を入れているあたりにまで波紋が広がっていく。
「美化?」
 やおら天使が訊き返してきた。
「まあ……、ならば、レイヴは『英霊祭』の新しい名前は、どのようなのがふさわしいとお考えじゃ?」
 訊かれてレイヴは天使を見た。しばらく考えてやがてかぶりを振った。
「思いつかんな。俺には、英霊は英霊なんだ……」
 我ながら、子どものような答えだなとレイヴは思ったが、それしか言えなかった。


 火を起こしてヤマメを焼いた。最初一匹のヤマメを逃がしてから、時間を置いてもう一匹獲った。それを天使がつくった蔓籠の中に入れて水につけていた。もう一匹獲ろうとして、天使は自分もやる、と言って腰を上げた。天使は魚獲りが下手で、それでも何度も挑戦して、結局何も獲れなかった。
 焼く前に、木の枝をとってきて、それをヤマメの口から突っ込んで回した。引きぬくと、内臓がとれた。臓物と血のついた枝を見て、天使は「魚の中身はこんなになっておるのじゃな」と言った。
 中身は、そう、こんなだ。
 さっきまで泳ぎまわっていた魚の中身は、この枝一本ですぐに取り除かれてしまうほどの塊で、あっけなかった。
「レイヴは、ようこんなふうに魚を獲って召し上がっておるのか?」
 はぜる火を見ながら天使が尋ねてきた。
「遠征の途中で騎士団の連中と野宿することもある。そのときにな」
 焼けたヤマメを天使に差し出した。
「食わないか。魚も、天使に食べてもらった方が、成仏できるだろう」
 天使はレイヴをちょっと見た。それから「半分いただく」と言った。
「……天使が食うたからといって、成仏の程度に影響するわけではないよ」
 小さく笑って天使はそう言った。
「……魚の言葉もわかるのか?」
 身をほぐしながらレイヴは尋ねた。
「魚の言葉はわからない。魚は、もともと人間に語りかけてはおらぬから。身共がわかるのは、人間に語りかけておる動物の言葉。動物同士の会話や心情までわかるわけではないよ。動物が人間に向けて発しておる気持ち、それを人間は聞き取ることはできぬけれども、表情や態度で少しは理解しておるじゃろう? それを身共は、言葉としてより明確に聞き取るだけの話」
 自然の中で人間と離れて生きるものは、それ同士で会話しているのだ、と天使は言った。
「クリフォードは、レイヴと一緒に生活しておるから、レイヴにいつも何かを伝えておるのじゃ。レイヴと言葉で会話できぬけれども、レイヴから何かを伝えられて、それからクリフォードもレイヴに伝えている。クリフォードは、レイヴが伝えてくれなんだことも察している。レイヴが騎士であることも、お友達と離れ離れになったことも、そのお友達が黒衣を着て現れたことも、レイヴが苦しんだことも、そのお友達を天国に送ったことも全部クリフォードは知っている。クリフォードは、いつもレイヴと一緒におったからじゃ」
「リーガルのことか……?」
「うん」
 ほぐした身を、朴の葉に乗せて天使に渡した。
「リーガルも……、英霊……だな。そうだな」
 つぶやいた。
「クリフォードは、いろんなことを知ってくれているんだな。俺がそれに気づかないだけで……」
「レイヴ、クリフォードは、それでもいいと思うておると思うよ。クリフォードは、レイヴに気づいて欲しゅうてレイヴを見ておるのではないよ。レイヴと一緒にいられることで、レイヴが撫でてくれたり洗ってくれたり、そんないろんなことで幸せなのじゃと身共は思うよ。そうでないと、レイヴに悩みがおありだなどと気遣うたりせぬよ。レイヴが気づいても気づかなんでも、クリフォードはレイヴのことを見ておると思うよ」
 天使が言った。レイヴは魚を一口食べた。
「じゃあ……、そのことを知った俺が、今度はもっとクリフォードに報いる番だ」
 レイヴは静かにそう言った。


 日が暮れてきた。天使と別れてクリフォードと歩いていき、平地に出た。そこからクリフォードに跨って町に着いた。宿屋の厩舎にクリフォードを入れて、レイヴはそこから離れる前に、愛馬にブラシをかけてやった。
「今夜はうろうろしない。安心してやすめよ……」
 クリフォードの黒い眼がレイヴをじっと見ていた。レイヴはクリフォードによく見えるように、笑顔をつくった。もう一度クリフォードの身体を撫でた。
 クリフォードには無理に笑顔を見せたが、レイヴの胸はすっきりしなかった。食事を済ませて部屋に入ると、もう日がすっかり落ちていて、ベッドに腰掛けると、彼は英霊祭のことに思いを巡らした。
 英霊祭自体をやめろとカノーア王室は言ってきたのではない。けれど、「英霊」という言葉にケチをつけられたのだと、レイヴは少なからず感じていた。確かに過去の戦で被害を蒙ったカノーアから見れば、ヴォーラス騎士団側の戦死者は「侵略者」以外の何者でもないのかもしれないが、その「侵略者」とて、今までのヘブロン王国の存続のひとつの「歯」になっているわけで、彼らがカノーアから食料や水を奪ってきてくれなければ、カノーアと同盟関係になかった当時のヘブロンは壊滅していたかもしれないし、ファンガムに侵略されていたかもしれないとレイヴは思う。だから彼らは、ヘブロン国民から見れば「国のために死んだ英霊」なのだ。
 戦がよいことだと言いたいわけではない。ただ、そうやって自国を守るしか手段がなかった時代があったということを忘れ、今の「平和思想」でヘブロンの戦死者を「侵略者」と言ってしまうことはレイヴにはできなかった。
 他国から奪ってでも生き残ろうとしたこと、もしもそれ自体が罪だと言われるなら、それは人間にとってひどく酷なことだとレイヴは感じる。
 人間は、生きていたいのだ。滅びるとわかっていて、やすらかに手を組んで、その日まで何も傷つけず、誰も叫ばず、そうやって正気でいられるほど人間は強くない。もしかしたら、そんな人間もいるかもしれない。けれど、自分には不可能だと思った。奪ってでも生きたい、死にたくない、そう思ってしまうかもしれないと思った。リーガルがいつか言ったように。あの最期のときに、リーガルは言った。自分は騎士としていつでも死ねる覚悟でいた。けれど、いざとなったら死ねなかった。そんなときに堕天使が現れた。彼は死にたくなかった。レイヴへの気持ちを「負」にすべて変換し、それを食べてでも生きることを選んだ。誰がリーガルを責めることができる? リーガルを責めることができるとすれば、それはインフォスというこの世界を闇のように変えてしまう手助けをしたことであって、「生きる」手段を選ばなかったことではないとレイヴは今思った。いや、正確に言えば、「手助け」自体がすでに「生きる手段」のうちに組み込まれていたことなのかもしれないが、それでもレイヴはリーガルを責める気持ちになれなかったし、ならなかった。
 価値観は、不変ではない。時代の情勢によって刻々と変わっていく。富めるとき、病めるとき、その環境によってもひとの価値観は変わってしまう。平和なとき、逼迫したとき、同じ人間でも違うことを考える。だから、今の価値観で、昔のことを裁くことは不可能だとレイヴは感じる。教訓にしたり、戒めにしたり、それは可能だと思う。カノーアのひとたちが、「ヴォーラス騎士団の過去の戦争の死者は英霊ではない」と言いたい気持ちもわかる。だが、それを受けて、ヘブロン側の人間が、カノーアの主張に従い、「彼らはただの侵略者だった。だから英霊ではない」と断じることができるだろうか? 彼らが命をつないだこのヘブロンの地に生まれ、その礎の上に生きている自分たちが、この国自体を否定せずぬくぬくと富める国の上で当然のような顔をして暮らし、しかし彼らを糾弾し、今の平和的価値観で裁くことは、酷く残酷で恥知らずなことのような気がしてならなかった。
 同時に、過去のカノーアとの戦争で生命を落とした「英霊」、ファンガムとの戦で死んでいった「英霊」、それから死にたくないと言った親友リーガル、その騎士たちと自分はどう違うのだろうと思った。
 違うのは、自分は今生きているのだということだけだ。


 あの弓矢が何cmかずれて刺さっていたら――
 あのときクリフォードがバランスをとってくれなければ――
 小隊と合流するのが何分か遅れていたら――


 死んでいたかもしれない、と思った。いろんな仮想が頭をかすめて、それから消えていく前に、出陣のときにいて、退陣のときにいなくなっていた仲間の顔に変わって消えた。
 不意に、昼間のヤマメを思い出した。1番最初に獲ったヤマメだ。天使がつくった籠もなく、仕方がないので川に返した。あのとき籠が既にあったなら、籠でなくとも別の入物があったなら、あのヤマメは焼かれて食べられていた。現に天使が籠をこしらえてから獲ったヤマメをレイヴと天使は食べた。
 生きているということは、偶然の上に成り立っているものに他ならないのだと、レイヴは感じた。
 どこがどう違う、「英霊」と俺はどう違う。
 死んでいるか生きているか、それだけの違いだ。
 生きていることと死んでいることはどう違う。
 多分、今まで自分が思っていたよりも、小さなもので「生きる」ことは成り立っている。


 窓がたたかれた。天使がそこにいた。
「こんばんは~、夜分すまぬよ」
 間延びした声で挨拶しながら部屋に入ってきた天使は、開口1番こう口にした。
「何故、今頃になってカノーアが、英霊祭の名称変更を求めてきたか、少しわかった」
 天使の言葉に、レイヴは思わず彼女を見た。
「レイヴ、ファンガムのクーデターはご存知か? ご存知じゃよな?」
 レイヴはうなずいた。
「ブレイダリク王が暗殺された事件だな。勿論知っている。ヘブロンとの国境の警備を強化したくらいだからな。ステレンスという臣下が、新政権をつくろうと画策しているようだが……」
「うん。ブレイダリク王だけでのうて、そのご子息もみまかった。ステレンスの仕業じゃ。ステレンスは、どうも魔物と手を組んでおるらしい」
「魔物と? リーガルを操っていたやつらのことか?」
「おそらく」
 レイヴは歯ぎしりした。
「身共は……、ファンガム王国の問題としてのクーデター及び政権交代が、世の理に必ずしも反するものとは申し上げぬが……、それが魔物の力に因るものならば、あってはならぬことと思う」
 ファンガム王国の国王が、「建国祭」という祭の日に臣下によって暗殺された事件は、インフォス中に知れ渡っていることであった。世継ぎであった王の子息も討たれ、クーデターを起こした反王族派は、王家の最後のひとり、アーシェという王女を探しているという。
「実は、アーシェ王女は、我らの手で王族派の将軍の元へお連れした。昼間申し上げた、ファンガムにおいでた勇者候補というのは、アーシェ王女のことじゃ。将軍のところに安全にお連れしたのは、勇者候補であった王女への、まあ、せめてもの餞別と申すか……」
 そこまで言って、天使は変な顔をした。何事か、胸に引っかかることでもあったのかもしれない。
「では、今、ブレイダリク王家を擁護する臣下の一派が、反乱軍の討伐のために、アーシェ王女を中心として結束しているという噂は本当なのだな」
「うん。極秘事項として伝わっておるか?」
「いや、王族派の結束自体は極秘でも何でもないが、アーシェ王女の消息は伝わってきていない」
 天使はうなずいた。「なるほど」と言って、宙を見た。何事か考えているようでもあった。
「そのアーシェ王女と、カノーアのミリアス王子はご婚約中じゃ」
 窓辺で壁にもたれ、腕組みをして天使は言う。その姿は、どこか人間くさく、そうしてまるで何かの策でも思案している戦士のような堅い空気さえまとわりついているように見えた。
「もともと強い同盟関係にあったファンガムとカノーアじゃ。その上、王族のおふたりが今はご婚約中。当然カノーア王室は、ファンガム王族派を支援している。ミリアス王子を中心として、な」
 そこで一歩天使はレイヴに近づいた。
「ただ、カノーア王室について、ちと気になることをみつけた。カノーア王室への国民からの支持率じゃ。パーセンテージにして、今いくらぐらいか、レイヴはご存知か?」
 レイヴは少し考えてかぶりを振った。
「60パーセント。ミリアス王子がアーシェ王女とご婚約なさった当初は、支持率は95パーセントあった」
「誰がリサーチしたんだ?」
 レイヴの問いに、天使はちょっと笑って肩をすくめた。
「極秘事項――、と言いたいところじゃが、引っ張るところでもないな。身共の叔父じゃ。身内ながら、妙に数字が好きな男らしい。何事か計算して、こんな数字を出してきた」
 劇的な下落だ、と天使は言った。アーシェ王女と言えば、ミリアス王子と婚約してからひとりでファンガムを飛び出し行方不明になっていたと聞いている。そのことが、カノーアの国民の王室支持率にも影響しているのかと天使に尋ねると、天使は「叔父の推察もそれと同じだ」と答えた。
「叔父が言うには、カノーアの方々にしてみれば、自分の国の王子を蔑ろにされて、ファンガムに対しては反発心が生まれるじゃろう、ということじゃ。そこでカノーア王室としては、婚約破棄でもしておれば、まあ、国民の感情には……、さしてマイナス作用はなかったやもしれぬけれども、ミリアス王子側はおやさしいことにアーシェ王女を探すといったことまでしておったようじゃな。そこでカノーアの方々は――」
「ミリアス王子、いや、カノーア王室に愛想が尽きたということか。アーシェ王女に対してだけでなく」
「まあ、のう、いや、『尽きて』はおらぬようじゃが、下降線は――、続いておるようで。王室への不信は、デフレを招きそうな状態も引き起こしておるらしいよ。皆の消費活動がふるわない。お金を使わなくなっておる。いくら農業国家といえども、やはり現代国家じゃ。貨幣流通に勢いがないと失業率も上がる」
 そこまで言うと、天使は組んでいた腕をほどいて肩にかかった髪を払った。
「なるほど。思ったより、カノーアの王室のおかれた状況は逼迫しているようだな」
「うん。もともと好戦的なファンガムの方々とは対照的に、カノーアの方々の気質は戦を好まない。ファンガムともヘブロンとも同盟を結んでおるのは、その非戦精神の所以ではないかと思うが……。ところが、カノーア王室はミリアス王子を中心として、ファンガム王族派を支援し始めたわけじゃろう? 物質的支援だけでなく兵も動員という事態を、カノーアの方々は危惧しておるわけじゃ。その不安がさらに、王室への不信を増幅させる。王室としては、支持回復に必死じゃ。共和制国家のカノーア王室など、他の貴族と実質権限は同じじゃからな。まあ、周りの貴族にしてみても、はよう王室の支持率を取り戻さぬと、カノーアという国自体がファンガムと心中してしまうことになりかねない。いや、ファンガムはクーデターを制すことができたとしても、カノーアだけが沈没してしまうことも考えられる」
「しかし、『同盟国』が支援を行うのは世の道理だろう。それが同盟国というものだ。逆に言えば、それを破れば何倍もの不信を相手国から買うことになるということだ。カノーア王室の考え方は、俺から見れば理に適っていると思うがな」
 レイヴがつぶやくと、天使はうなずいた。
「おっしゃるとおり、戦がよいとか悪いとか言う以前の、これは『外交』の問題であって、カノーア王室としては更なる災厄を防ぐために、同盟国としての役割を果たそうとするのは道理に適うておると身共も思う。天使にあるまじき考え方やもしれぬけどな」
 そう言って、天使は小さく笑った。レイヴは彼女を見て、「いや」と首を振った。それ以上は言葉が出なかった。
「ただ、カノーアの人々にしてみれば、いかなる王侯貴族の思惑があろうとも、自分たちの生活がおびやかされるかされないかが最優先事項であるということも、わかるな……」
「そこじゃな」
 天使が宙を指差した。何かを指したのではないらしかった。
「カノーアの方々の気持ちも真理、じゃが、カノーア王室の思惑も真理じゃ。いずれにせよ、カノーア王室にしてみれば、外交策としてはファンガムを切り捨てるわけにいかんじゃろう、それは確かじゃろうと思う。そこでじゃ、カノーア王室としては、一体どうすればよいと思う?」
「どうする、とは?」
「手っ取り早うカノーアの方々の気持ちを王室寄りに戻すためにじゃ」
 天使の顔を見ながら、レイヴは考えた。それから、不意に
「まさか」
と言った。
「バラバラになった人心をひとつにするためには、共通の目的や敵をつくることだ……」
 つぶやいたレイヴに、天使は静かな眼を向けた。
「身共も、そう思う」
「まさか、ヘブロンはカノーア王室にとっての、スケープゴートだと言いたいのか? ヘブロンへの不満を皆の共通意識として植えつけ、ファンガムとカノーア王室への不信から眼を逸らさせようとして――。まさか」
 そこまで言って天使を見たレイヴの顔は、いつもより白くなっていた。
「あり得ぬ話じゃとお思いになるか?」
「いや――」
 かぶりを振って、レイヴは両手で顔を撫でた。まるで猫が顔を洗う仕種をするように。眼がかわいてしまって、少し痛かった。
「ヘブロンへの不満は、騎士国家でないカノーアの人々には元から確かにあったんだろう。『英霊』といっても、カノーアの人々から見れば、ヴォーラス騎士団は侵略者で略奪者だ。ヘブロン側に『英霊』という言い方を取り下げさせれば、それはカノーア王室の成果になるだろうな……。人心はカノーアの王室に返ってくる。同時にファンガムへの不信をも和らげる……。だがな、ハナカズラ」
 そこでレイヴは天使の名前を呼んだ。天使はレイヴを見た。
「ヘブロンの上層部は、どうしてカノーア王室のそんな要請をはねつけない? 今まで騎士国家であるヘブロンは英霊祭を毎年行ってきた。今更突然そんな要請をしてきても、カノーアの思惑さえ見破れば、そこで何とでも理由をつけて断ることはできるはずだ。だがな、俺に話をした中将は、歯切れが悪かった。酷く悪かったんだ。まるで何かカノーアに弱みを握られてでもいるようにな」
「レイヴ、カノーアにレルシュという山脈があるのはご存知か?」
 不意に天使が言った。
「その山脈で1ヶ月前、鉱脈がみつかった。ボーキサイトが出る」
 そう言って、天使は一度眼を閉じた。そうして、また開いてレイヴを見、そして言った。
「ヘブロンは、今国を横断する鉄道というものを建設中じゃな。ボーキサイトは……、要らぬじゃろうか?」
 レイヴは暗い夜気を見据えた。


 ハナカズラ。
 と、天使の名前を呼んだ。
 聞いてほしいことがある。
 君は天使だから、人間である俺がしたことのない考え方をするかもしれない。
 それでもいいから、いや、それだから、少し俺の考えを聞いてくれるだろうか?
 戦のときでもそうでないときにも、自分が歩いていく道の途中でいろいろなものに出会うんだ。
 それは、石の姿をしていたり、紙に書かれた文字であったり、木でできた建物だったりするけれど、俺はその本質はすべて同じなのではないかと感じることがある。
 昔名を残したひとを称える石碑であったり、願い事を書いた短冊であったり、そこに住むひとたちを見守る神の家であったり――。
 俺は小さい頃、神さまに感謝しなさいと親に言われて、感謝しなかったらどうなるんだろうと思って、手を合わせたり祈ったりしていたことがあった。しかし笑ってくれてもいいが、自分が何かの危機に陥ったとき、思わず心から神に祈ったりすることもあった。どうか僕を守ってください、そうしてあのひとを守ってください。そんなふうに身勝手に。だが、それは俺の本当の気持ちだったと思う。
 今思えば、神さまが俺の頭の上に本当にいるかいないかよりも、俺が神さまを必要とするかしないか、そのとき信じているかいないか、それが1番自分にとって関係のあることなのではないかという気がする。君がやってくる空の上にもしも本当に神さまがいるのだとしたら、俺が必要としないときも、きっと待機してくれているのだろうと思う。俺は神さまに甘えているのかもしれないが、神さまはそんなふうに寛大なお方なんじゃないか? 間違っているだろうか?
 言い方を変えれば、人間が必要とするときに神さまは降りてきてくれるが、そうでないときには眠っているか他の世界へ行っているか、なのではないかと漠然と想像しているということになる。
 だから、人間の身勝手だと思うけれど、人間が必要とするときには、神さまや精霊は、そのとき妥当と思われるくらいの力を貸してくれるのではないかと思ったりもする。
 君は気づいているだろうか? ヘブロンには精霊を信じる風習がまだ少しは残っていて、あらゆるものに魂は宿り、言葉や音楽にも精神があるという考え方が根底にある。それから、死んだ人間は、生前どんな人間であったとしても、精神体となったときには、生きているヘブロンの国民を守ってくれる神のような存在になるという意識がある。
 英霊祭もそんな考え方に起因する儀式で、過去に戦で生命を落とした騎士に、ヘブロンの守り神であってくださいと祈る儀式でもある。
 ただ、騎士団の人間、俺のような人間にはそれだけでなく、いつ自分がこのずらりと並び黙祷する騎士たちにまつられる存在になってもおかしくないということを再確認するときでもあるんだ。そうして、「英霊」を心から「英霊」だと思う。このいとしい国の土の一粒、石のひとかけら、それらさえ、英霊に守られているのだというような気持ちになってくる。
 俺は騎士団長だから、祭壇の1番近くに立って奉辞を読み上げる。祭壇がよく見える。しかし、読んでいるうちに、だんだんと祭壇の方を見られなくなってしまう。
 ヘブロンに帰ってこられない騎士がいた。遺体さえ崖の底で、そこから引き揚げられることなく眠る者もいる。そんな騎士たちも、この祭壇にはきっと帰ってきている、そう思う。彼らの懐かしい家とともに、この騎士団の祭壇にも帰ってきている、そう思うと、俺は何故だか祭壇をしっかり見られない。俺は生きている。リーガルを犠牲にして、他の騎士も犠牲にして、そして騎士団長になって、そうやって生きている、ずっとそう思っていた。だから英霊に対して顔を上げることができなかった。
 だが、今日思ったことがあった。俺は偶然生きているんだと。死んだ騎士たちは、偶然死んだのだと言ってしまうと、言葉は悪いような気もするが、それでも生と死に、「必然」などないのではないかと思った。生きるべくして生きる、死ぬべきものが死ぬ、そこまで人間はえらくないのではないかと思った。生きているものは偶然生きていて、その生が全うされるまで、「偶然」を積み重ねて生きていくのではないかと感じた。「偶然」の中を泳ぎながら、何かを探したり、悩んだり、苦しんだり、喜んだり――
 誰かを好きになったり。
 そうした日々を包み込む外皮があるとすれば、それは「偶然」といったものではないかと、そんなことを感じた。
 偶然生きている俺は、どんな人間なのだろう。どんな存在なのだろう。生きている俺は、自分のしたいことがある程度できる。食べたいと思ったものを食し、行きたいと思ったところに行ける。それは不自由な自由なのかもしれないけれども、生きて何かをする、といったことは、生きている人間の特権ではないかと思った。だが、その「特権」も偶然の産物だ。
 偶然生きている俺は、やはり「英霊」となった死者と、そんなに変わらないのではないかと思うし、いや、やはり全然違うのかもしれないとも思うが、ただひとつはっきりわかることは、英霊を敬い、まつることができるのは、それを信じる心、それをいとしいと思う心、その気持ちを持ちうる立場にある生きた人間だけだということだ。ヘブロンの人間が「英霊」をまつらずに、誰がまつることができる。誰が彼らの帰ってくるところを守ることができる。
 誰が彼らを「英霊」として認めてあげることができる。
 ハナカズラ 聞いてくれ。
 英霊たちが帰ってくるんだ。
 あの祭壇に帰ってくるんだ。
 君は去年も一昨年も、その前の年も英霊祭に来ていただろう?
 祭壇に帰ってくる騎士たちの姿を見たか?
 俺は実はまだ見たことがないんだ。
 今年こそは顔を上げて彼らを出迎えたいと思う。


 カノーア王国の王宮の最上階にミリアス王子の居室がある。
 王子はファンガム王族派幹部との極秘会談を済ませ、ひとりで自室に戻った。
 木の調度で統一した王子の部屋の中には、もう薄闇が降りてきていて、その中で王子は文机に、一通の手紙があることに気がついた。
 差し出し人の名は、ヘブロン国ヴォーラス騎士団長レイヴ・ヴィンセルラスとある。封緘は蝋でなされていて、星をかたどった印がはっきりと見てとれた。この星のマークは、ヘブロンでは貴族階級を意味している。ヘブロンの国旗では、「夜空」としてあらわされている階級である。そして、もっとよく見てみれば、星と剣が組み合わさった図柄になっていて、王子は、騎士団のマークであることをここで確認した。
 王子は廊下に出て、部屋係の長官を呼んだ。今日、午後から手紙の取次ぎをしたかと長官に尋ねた。長官は、午後以降には、一通の手紙も取り次いでいないと答えた。王子は机の上にある「騎士団長」からの手紙のことを長官に話そうかと思ったが、何故かそこで口をつぐんだ。長官に、下がっていいとの旨を伝えた。
 長官は、わざと知らないふりをしているのだろうか? それとも長官の眼をかいくぐって、誰かがこっそりと取り次いだのだろうか?
 何にせよ、ヴォーラス騎士団の長からと書いている手紙を、そこで破り捨ててしまうわけにはいかなかった。これが真実、騎士団長からの手紙であれ、またそうでなくとも、誰かが何かの意図で置いたことは事実であると王子は思った。
 ――ヘブロンという名は、ファンガムと同じくらい、今、カノーアの国を振動させ、そして、王子の胸中にも水滴のような雨だれのようなものをひっきりなしに落としつづけている。王室の中でも意見が割れている。先日発見された鉱脈の資源の輸出という条件と引き換えに、「英霊祭」という名前の取り消しを求める、その要請は一種の「脅し」であり、ヘブロン相手にこんなことを続けていればいつかカノーアは自滅してしまう、そう言っている者もいる。王子は、これは「脅し」ではなく「取引」なのだと主張してきた。それは、王子自身の胸の内に、「取引だと思っていたい。脅しだと認めたくない」という願望があったからかもしれなかった。
 ヴォーラス騎士団長は、一体何を書いてきたのだろう。
 ミリアス王子は封を開けた。開けた途端、白くて大きな羽がひとつ出てきた。
 と、思ったら溶けるようにして見えなくなった。
 王子は眼をこすった。
 それから中の便箋を取り出して広げた。


 前日まで降っていた雨が、今朝起きるとすっかり上がっていた。式典の行われる宮殿への道を人々は歩いていく。その足許から、水の冠がひっきりなしに生まれて消える。
 ヴォーラス騎士団の団長は、明るくなる前に宮殿に入り、人々の長い行列を見ることはなかったけれど、それでも外のにぎやかなざわめきの声は、彼の耳にも聞こえていた。
「本当に、英霊祭にふさわしいよいお天気になりましたね」
 振り返ると僧正が立っていて、彼の方に穏やかな笑みを向けていた。
「ええ、太陽が、今日という日を知っていてくれたようですね」
 騎士団長はそう答えると、傍らにいた部下にうなずいて合図した。部下は一礼して持ち場に帰っていく。
「空も、忘れないでいてくれたのですよ、英霊たちのことを」
 そう言って回廊から庭園を望んだ僧正は、眼を細めた。それから僧正は何も言わなかった。
 政治的発言権を何も持たない穏やかなヘブロンの僧正は今日まで何も言わず、そうしてこの日も何も言わなかったが、騎士団長には、僧正の気持ちの断片が、少しだけわかるような気がした。


 中将に呼ばれて宮殿の奥に向かった。ヘブロン国王の玉座があり、王が立ち上がって騎士団長を迎えた。王の隣の客座には、見覚えのない若い貴人が座っている。
「あなたが……」
 若い貴人は騎士団長を見るなりそう言って、しみじみとまた騎士団長を見た。
「騎士団長、こちらは、カノーア国第一王子ミリアス殿下だよ」
 ヘブロン国王がそう言って騎士団長を見た。騎士団長は息を呑んでミリアス王子を見、それから膝を折って礼の姿勢をとった。
「あなたと、お話ししてみたいと思っていました。お差し支えなければお付き合いいただけますか、お時間よろしければ……」
 ミリアス王子の申し出に、騎士団長は顔を上げ、ヘブロン国王は小さくうなずいた。
「お若いミリアス王子と騎士団長はお年が近い。この私よりも、お相手になるやもしれませんな」
「いえ、そのようなつもりで申し上げたのでは」
 ミリアス王子が慌ててそう言ったので、ヘブロン国王は快活に笑った。
 ミリアス王子に庭園を案内するという名目で、王子と騎士団長はふたりで庭園の方に出た。護衛の者も下がっていていいという王子の命令で、庭園には王子と団長のふたりの姿しかなかった。
「これを、私のところにお送りくださったのは、あなたでしょうか?」
 王子が懐から出したのは、白い封筒だった。
「あなたのお名前が記されています」
 静かに言った王子に、騎士団長はしばし言葉を探してから、「はい」と答えた。
「レイヴ・ヴィンセルラス騎士団長……。お手紙を拝読しました。私からの返事は……、僭越ながら、今日この英霊祭に出席させていただくことに代えさせていただいているつもりです」
 王子は静かにそう言った。そうして小さく笑んでいるように見えた。若いのに、物腰柔らかく、そうして言葉を選ぶ性質の次期国王だとレイヴは思った。王子に頭を下げた。深々とした、最敬礼であった。
「大変失礼な手紙をお送りし、申し訳のほどもありません。殿下におかれましては、御不快でいらしたのではないかと存じます。私の一存で僭越な手紙を――」
 うめくように言ったレイヴに、ミリアス王子は小さくかぶりを振った。
「正直申し上げて、私は面食らいました。ヴォーラス騎士団長が、私に直接お手紙をお送りになるとはゆめにも思っていませんでしたので……。受け取った当初は、騎士団長というお立場から、政治的内容に絡めてお書きくださっているものとばかり思っていましたが……、あなたは、あなた個人の胸の内をお書きくださっていましたね」
 王子の言葉に、レイヴは頭を下げたまま黙っていた。王子が二の句をつづけた。
「大変、わかりやすかったです。あなたという騎士のお気持ちが。ヘブロンの国民であるあなたのお気持ちが。もしもあなたが『騎士団長』という立場から私に何事か政治的に進言ということならば、私はカノーアの『王子』として、あなたからのお手紙を拝見せねばならなかったでしょう。しかし、私は『王子』である以前に、『ミリアス』という人間として、あなたからのお手紙を拝見できたような気がします」
 そう言ってから王子は、「頭を上げてください」とレイヴに言った。レイヴは頭を上げた。そうして、一息ついてから
「ありがとう……存じ上げます。殿下のお気持ち、決して忘れません」
ミリアス王子にそう言った。王子は静かな顔をしていた。
「ところで、ひとつ気になっていることがあるんです。あのお手紙、私のところにどのようにお送りになりましたか? 私の方に何か手違いでもあったのかもしれませんが、取次ぎを介して私の手元にまでやってきた形跡が……ないのです」
「それは……」
 言い淀んだレイヴに、ミリアス王子は申し訳なさそうに笑んだ。
「いえ、わかりました、これは取り下げましょう。カノーアにも、ヘブロンへの要請は行きすぎではないかという意見を持った者もおりましたから。そういう人間の中に、あなたのお手紙を取り次いでくれた者がいるのでしょうね」
 レイヴは黙っていた。ミリアス王子はそれ以上、そのことについて尋ねてはこなかった。
「殿下、私の方から、僭越ながら申し入れさせていただきたいことがございます」
 やおらレイヴが言った。その言に、ミリアス王子は顔を上げた。何事か考えていて、ふっと覚醒でもしたかのような顔をした。
「おっしゃってください」
 王子が答えた。レイヴは礼の姿勢を一度とり、ミリアス王子の顔を見た。
「ファンガム王国逆臣のクーデターに伴い、殿下のカノーア国がファンガム王室をご支援なさっていること、恐れながら聞き及んでおります。また、平和的なカノーアの国民が、戦を危惧しているといったこともうかがっております」
 王子は小さくうなずいた。
「否定するようなことは何もありません。あなたのおっしゃったとおりです」
 レイヴはまた礼をした。そしてつづけた。
「殿下のご判断、カノーアの方々の危惧、どちらも私には真理と感ぜられます。ですが殿下、ファンガムのクーデターは、ファンガムだけの問題ではないようです。あのクーデターを起こしたステレンスという逆臣、あの者は、魔物の力を借りています」
「魔物……? 近頃このインフォスで不可解な事件が頻発しているそうですが、先日はカノーアの森にも翼のある魔物が現れたと聞きました。そういった輩の力を借りていると――?」
 眉根を寄せたミリアス王子に、レイヴは小さくうなずいてみせた。
「おっしゃいますとおりです。魔物の力を借りているステレンスは、普段我々が考えもつかない異常能力を持ちえていると……考えられます。ファンガムを手に入れれば、次にはインフォス全土にまでその手を伸ばしてくることは必定かと思います。ファンガム、そしてカノーア両国の平和だけでなく、インフォスの人々すべてを守れるか守れないか、それがこの事件にかかっているのではないかと思います。ただのクーデター、ただの戦では終わらないものかもしれません。また、ファンガムとカノーアだけが、魔物の犠牲になることはありません。これは、インフォス全体の問題です。ヴォーラス騎士団長、レイヴ・ヴィンセルラスもヘブロンとインフォスを守るために魔物討伐に参ります。ですから、そのように、カノーアの国民に、どうぞ、お伝えください――」
 これでミリアス王子に報いることができるだろうか、と、レイヴは思った。できると思っているのは、自分の甘さだろうか? しかし、少なくとも、ファンガム王族派を支援しているカノーア王室へのカノーア国民からの不信、これを、ヴォーラス騎士団長である自分がファンガムのクーデター鎮圧のために向かうと公言することで、少しは和らげることができるのではないかと思った。ヘブロンも参入するとなれば、これはファンガムとカノーアだけの問題ではなく、インフォスの大事件であるという認識をカノーアのひとたちは持ってくれるかもしれない。
「上層部にはこれから話をしますが、ヴォーラス騎士団からも正式に、ファンガム王族派支援部隊を送るつもりでおります」
 レイヴがそう言うと、ミリアス王子は
「早く――、元の懐かしいインフォスに――、一緒に戻しましょう」
そう言って、レイヴをみつめていた。


 ここに眠る幾多の英霊よ
 やすらかな眠りのあらんことを


 奉辞を読んで、祭壇を見た。晴れた空からやってくる光が、天井の明かり採りを通り、石の祭壇を包んでいる。
 騎士団員ひとりひとりが一輪ずつ献花していく様子を、レイヴは最前列で見ていた。


 天使の一群が 僕のあとをついてくる
 僕が帰るべき場所まで どうか連れていって


 いつか聴いたどこかの国の伝承歌を頭の中で歌った。ヴォーラスの騎士団歌よりも、今はこの歌の方が、やさしくそして悲しく、けれどどこか懐かしく響いていくような思いがした。
「レイヴ!」
 どこからか声がした。眼を見開いて、レイヴは祭壇を凝視した。
「英霊祭の挙行おめでとう。式典中にお邪魔して申し訳ないのじゃ」
 言いながら、ハナカズラが祭壇に上って、最上段の聖母像の辺りで手を振っている。レイヴは思わず周りをすばやく見た。誰も天使の声にも姿にも気づいていないらしい。
「あのな、英霊が帰ってきておるよ。見えるか? ここじゃ、英霊の列が見えるか?」
 天使が言いながら手で示す。
 眼を凝らさなくても、それははっきりと見えた。
 祭壇に上っていく鎧の男たち。
 馬たち。
 肩を組んで歩いていく騎士たち。
 祭壇に上っていって、吸い込まれるように見えなくなる。
 一年に一度、帰ってきているのだ。この祭壇に、このヘブロンに。この祭壇を目指して、彼らを「英霊」とあがめるひとたちの前に、安心して帰ってくるのだ、どんなに苦しみながら死んだとしても、どれほど絶望の中で息絶えたとしても、どんなに遠くの地で孤独に嘆いたとしても。
「レイヴ、見えておるよな~? 身共はここじゃ、ここ~」
 そのとき、英霊の列の波に押されて、不意に天使の姿が飲み込まれた。
 思わずレイヴは駆け出していた。祭壇の前に駆けよって、天使の腕を掴んだ。英霊の波間に見えた天使の腕を掴んで、波の中から彼女の身体を引き出した。あちら側に行ってしまう、天使が行ってしまう、そう思った。そのときは、ただそう思ってしまった。英霊の波に押し戻されそうになるのを感じ、思いきり腕を引っ張り、そうして引き出せたと思った瞬間、彼女の身体を自分の両腕の中に入れた。まるで、おもちゃを取り上げられる子どもが、必死でそれを抱きしめてとられないようにするかのように。
「団長、どうしましたか!」
 騎士団員が駆けよってきた。
 天使を助けたつもりだった。
 それなのに。
 彼がかき抱いているのは、聖母像だった。
「いや……、聖母像が……、ぐらついたような気がしたのでな……」
 そう言い訳して、レイヴは隣を見た。天使が不思議そうな顔をして立っている。
「レイヴ、大丈夫か? 身共が騒いだから、像がぐらついたのかのう……。すまなんだよ」
 頭を掻いて天使が言った。レイヴは天使を見ながら、眉根を寄せた。それからどういう顔をしたらいいのかわからなくなった。とりあえず照れて小さく笑った。英霊も、こちらを見ているような気がした。

・ 楽園に生命を与えたまえ/終 ・



 ちなみに私、ヤマメ食べたことないので、食べてみたいな~と思って書きました。ちなみのちなみに最後にちらっと出てくる歌は「スウィング・ロウ」という曲でございます。